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スタートアップの中心地創出を企図する神戸が目指す新しい行政の姿

中小企業診断士の鈴木です。中小企業診断士、さらにはMBA取得に当たって、創業、そしてスタートアップに関するわが国の課題はとても大きいということを学びました。そしてたどり着いた1つの結論はスタートアップを成功させるためには、メンターなどサポートする人や組織が重要である、ということです。

スタートアップが盛んな地域を見てみると、世界で最も投資金額の多いのはアメリカはサンフランシスコにあるシリコンバレーです。KDDI総合研究所の「2018年米国ベンチャー投資総括」によると、2018年のシリコンバレー内の投資額は約10兆円にまで達しています。日本の投資額は、一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターの「2018年度ベンチャーキャピタル等投資動向調査の速報値(年度速報)」によれば、2,706億円と一地域と日本を比べても日本は圧倒的に少ないのが現実です。

中国をはじめとした他国の発展により、わが国の存在感が世界から失われつつある今、スタートアップを国や地域内でサポートしていく必要性がますます大きくなっていきます。

そこで、スタートアップの中心的役割を担うのを買って出たのが神戸市役所なのです。

神戸元町の大丸の全景
元町は気品があった。

神戸市は、スタートアップを政策の最優先項目に掲げました。はじめに取り組んだのが、アクセラレーターの誘致です。誘致を受け進出したアクセラレーターは、シリコンバレーでも巨額の投資金額を誇る500 startups。2019年3月には日本法人が独立し、よりわが国のニーズにあったアクセラレーションプログラムが展開されています。

アクセラレータとは何かを書きました。

なぜ神戸はスタートアップ創出の地を目指すのか

日本全国で、多くの都道府県、市や町、村まで多くの自治体が創業支援を行い、街の活性化を実現しようとしています。しかし、日本の創業(開業)率というのは投資金額同様、毎年総じて低く欧米諸国と比べるとスタートアップ含めて創業が盛んであるとは言えない状況です。平成30年度の中小企業白書によれば、日本の開業率は5.6%、廃業率は3.5%で、比較したアメリカ、イギリス、フランス、ドイツと比べて最低の値です。廃業率も低いことは一見「着実な経営」を行えているという印象を与えがちですが、「リスクを負えない国」であるということも言えます。

開業率廃業率
日本5.6%3.5%
アメリカ9.3%(2011年)10.0%
イギリス14.6%11.6%
フランス12.7%9.5%
ドイツ7.1%7.5%

スタートアップという成功する可能性は低いものの、成功すると大化けする特徴を持った創業形態にはリスクは付き物であり、そのリスクをある程度享受する必要があるのですが、わが国ではまだそのような段階にまで成長しているとは言えません。

その状況下、神戸市がアクセラレーター誘致を実現できたことは国内におけるスタートアップ活性化のための1歩を歩めたと言えます。その実現の大きな要因は、やはり神戸市長のスタートアップ施策におけるリーダーシップが大きいのです。

神戸市長のプロフィール

神戸市役所のホームページによれば、神戸市長である久元喜造氏は、神戸市生まれで灘高校卒業後、東京大学法学部に進学(すげー)。そして、現在の総務省、当時の自治省に入省し要職を経験した後に2012年に神戸市副市長に就任、翌年神戸市長に当選、現在2期目にあたります。

上記を踏まえると市長など県知事を踏まえて地方自治体のトップに就く者のキャリアとしては結構ありがちです。しかし、その結構ありがちなキャリアを歩んだ市長が、スタートアップを自身の政策の中心に据え、全国的にも類を見ない事業を実現した理由は、サンフランシスコの視察にありました。

Coral Capitalの「『神戸市は実験都市であるべき』スタートアップ×行政に挑む、神戸市の胸の内」によれば、神戸市長は以下のように語っています。

きっかけは2015年、シリコンバレーでの視察でした。なかでも驚いたのは、サンフランシスコ市庁舎で交わされていた職員とスタートアップの方々のやりとりでした。「市ではこういったことが課題だ」「ならば、このアプローチが可能だ」と活発に議論していたんです。それも、とても生き生きとした雰囲気だったのです。正直に言ってしまうと、神戸市役所とはぜんぜん違っていました(笑)。

さらに、

500 Startupsと連携して500 KOBE ACCELERATORをスタートさせたのは、その翌年です。一方で気になり続けていたのが、やはりサンフランシスコ市庁舎で見かけたやりとりでした。あの生き生きとした雰囲気を、神戸市役所にも取り入れたい。しかし、従来のやり方だと「発注者×受注者」という関係性になってしまいます。そこで「Urban Innovation Kobe」を始めました。これは職員とスタートアップがともに地域課題に挑むプロジェクトです。

と、サンフランシスコ市と神戸市役所の職員のスタートアップに対する姿勢の大きな違いに驚きをもったようです。

そこで、アクセラレーター誘致に始まり、市と500 Startupsが連携のもと数々の事業が行われていくことになります。

  • 500 Startupsと連携した起業家支援プログラム
  • Urban Innovation Kobe(官民一体型新ビジネス創出事業)
  • シリコンバレー派遣交流プログラム
  • 起業家育成のための若手IT人材ルワンダ派遣事業
  • スタートアップセミナーである「Founders!」
  • KOBE OPEN ACCELERATOR

といった実に多彩な政策です。

神戸とwework

神戸市役所は500 Startupsだけではなく、最近なんやかんやで叩かれ気味のweworkともとタッグを組んでいます。

内容としては、スタートアップ企業、大企業などの中でイノベーションを担当する部署、外資系企業が神戸の中心地の三宮のweworkに入居する際、神戸市役所から入居に関わる助成金を受け取ることができるという点。さらには、入居して以降発生する費用もweworkの割引も受けられるという、神戸市とwework双方のサポートを受けられるのです。これにより、神戸市でスタートアップ企業が増加しやすい環境整備が一層進むことになります。

500 Startupsによって経営戦略、マーケティング戦略策定のサポート、そしてそれに伴う資金援助という言わばソフト面、そしてweworkというコワーキングスペースの開設によって多くの人や情報が集まる拠点というハード面を手に入れました。

神戸のあるべき姿
三宮駅の表示
三宮駅の表示

神戸が「スタートアップの街」として政策を推し進めることによって、実現したいことは何でしょうか。もちろん、国内にはまだないとされるスタートアップ・エコシステムを形成して、他都市との差別化を産むということが大前提ですが、さらに深掘りしていくと、神戸市が掲げる課題は根が深そうです。

神戸市役所住宅都市局が2018年3月に作成した「神戸市都市空間向上計画〜次世代に継ぐ持続可能なまちづくり〜 基本的な考え方(案)」で、

神戸市においても、全国と同様に人口減少、高齢化といった課題が進展しつつあります。 市としては人口減少を甘受するのではなく、「神戸人口ビジョン」と「神戸創生戦略」を策 定し、人口減少の抑制を目指して自然増や社会増に取り組みを進めています。

と将来的な人口減少の可能性が高いことを認めた上で人口の自然増および社会増を実現する必要性を説いています。

阪急電車。大阪、京都行きの案内
競合、大阪と京都。

確かに、神戸市の人口減少は、人口増加が予測される東京や福岡市、そして常に連携をしてきた中であり競合でもある大阪市、京都市は減少の予測があるものの下げ幅は神戸市よりも少ない数値となっており、人口減少予測を背景にやはり他都市との差別化できる事業が一層必要なのです。

若者流入率政令指定都市中No.1、福岡のスタートアップの魅力と課題について書きました

2015年人口(人)2045年人口(人)2015年を100としたときの2045年の指数
神戸市1,537,2721,295,78684.3
東京都13,515,27113,606,683100.7
大阪府2,691,1852,410,82089.6
京都府1,475,1831,297,24187.9
広島市1,194,0341,122,11294.0
福岡市1,538,6811,654,572107.5
行政がスタートアップのコアとして存在する意義

神戸市のように行政がスタートアップの中心にいるというのは全国的にほぼないです。神戸以外にあるとしたら、福岡くらいです。少なくとも大都市圏の中では。

そして、シリコンバレーにはスタンフォード大学を中心としたスタートアップエコシステムが存在しており、投資額は世界最大規模を誇っておりますが、日本において同様のエコシステムを確立した地域はまだありません。

東京では2000年代前半にビットバレーと呼ばれた渋谷が有力なエリアでしたが、やがて六本木に移り、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラスの開業など渋谷駅周辺の再開発を契機にまた渋谷でスタートアップエコシステムが生まれることが期待されています。そのエコシステムの中心は六本木から拠点を移したGoogleであって、渋谷区役所(私の元職場です)ではないのです。

世界から人や情報が集積するシリコンバレーでも、渋谷でも巨大な教育機関やIT企業がスタートアップの中心として存在しており、神戸のようにガチガチのイメージのある市役所が中心になることがいかに珍しいことかがわかります。

なぜ、神戸市役所がエコシステムの中心に存在するかと言うと、スタートアップに積極的な巨大な企業や大学が存在しないことにあります。仮に神戸市内にスタートアップ活性化の動きを示す巨大企業や大学が存在すれば、神戸市役所はエコシステムのあくまで「一参加者」だったはず。誰も企業も大学もやらないから行政機関が出る。つまり、神戸市でスタートアップを盛んにするためには神戸市役所が中心的な役割を担うことに必然性があったのです。

阪神の三宮駅
三宮は多くの人で賑わっている。
神戸のスタートアップ上の課題

そして、課題としてあげられるのが行政とスタートアップという「安定」と「不安定」の象徴同士が結託することでどれほどの高い効果を生み出せるか、ということです。元公務員として、私が考えるに公務員の業務フローとスタートアップの業務フローは全く異なるわけです。当然、役所のスピードは遅く、税金を使うという観点から慎重になる。ハイリスクハイリターンを好むものと嫌うものが今後も熱い友好関係を築き続けられるかという点は課題と言えます。さらに500 Startupsというアクセラレーターが日本での事業を成功させれば拠点を東京や大阪に移すということも考えられ、企業や起業家も移動し、残った神戸市役所は投資した税金が見込みを下回る金額しか回収できなかったということもあり得る話。

神戸市役所としても神戸がこれからもアクセラレーターや起業家にとって東京や大阪よりも魅力的なエリアであることをアピールし続ける必要があるのです。

それを踏まえると、アクセラレーターの誘致やそれに伴う各種施策のみならず、エコシステムの維持と発展のためには、神戸発のユニコーン企業の創出や渋谷におけるGoogleのような大企業の誘致など実績が求められることは間違いないでしょう。

すでに神戸市は新たな取り組みを始めていて「デジタル」と「ヘルスケア」を掛け合わせた「ヘルステック」を軸とした「神戸産業医療都市」を目指しています。

また、農業にもスタートアップの波を波及させています。「神戸農村スタートアッププログラム」により、神戸の農村地域である北区や西区でのスタートアップ支援を行っているのです。

上記のように、スタートアップの領域を限定することなく、多様な分野に挑戦することで神戸市が抱える社会課題を解決を行うことが、神戸市の今後の生きる道であると言えます。

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